健全な法治国家のために声をあげる市民の会

シンポジウム「コロナ、報道、国産ワクチン その裏側を探る」報告

  • 日時:2023年7月20日
  • 会場:明治大学グローバルホール
  • 主催:明治大学大学院情報コミュニケーション研究科
  • 協力:健全な法治国家のために声をあげる市民の会
  • パネリスト:
    • 植地泰之(医師、東中野セント・アンジェラクリニック院長、元アストラゼネカ執行役員、
            元グラクソ・スミスクライン株式会社ワクチン開発担当副本部長)
    • 海堂 尊(作家、医学博士、福井県立大学客員教授)
    • 川上浩一(理学博士、国立遺伝学研究所教授、専門は遺伝学・分子生物学)
    • 吉田統彦(衆議院議員、医学博士、昭和大学医学部救急医学客員教授、愛知学院大学歯学部眼科客員教授)
  • 司会・コメンテーター:八木啓代(健全な法治国家のために声をあげる市民の会代表)
  • 総合司会: 江下雅之(明治大学情報コミュニケーション学部教授)

2020年以後、世界を揺るがせた新型コロナCovid-19は迅速なワクチン開発の恩恵もあり、一時の危機的な状況を脱したかのように思われますが、一方で、このコロナ禍の中、華々しく打ち上げられた「国産ワクチン」計画は、莫大な補助金投入と株の乱高下を引き起こした末に、昨年末、ひっそりとフェードアウトしました。

 これといった実績も無く破綻しかけていたベンチャー製薬会社が突然華々しく打ち上げた「国産ワクチン」プロジェクト。発表当時から複数の専門家が疑問を呈していたこの「ワクチン」とは何だったのか? さらに同じ会社の関係者がからんでいる医薬品の期限付早期承認制度や機能性表示食品の問題とは?

 明治大学大学院情報コミュニケーション研究科主催で開催されたシンポジウムについて、報告を行いたいと思います。
 あまりにも濃い、そしていろいろショッキングな内容も含むものだったため、文章化に時間がかってしまいましたが、驚くべき話が次々にと明らかになり、是非、ご一読頂きたい濃い内容となっております。

植地泰之医師の講演

 最初の登壇者は、この日、わざわざ診療を休診して来てくださった東中野セントアンジェラ・クリニック院長の植地泰之ドクター。
 なんとこの方、数年前までアストラゼネカ本社の執行役員であり、グラクソ・スミスクラインのワクチン開発担当副本部長でもあったという経歴の持ち主でいらっしゃいます。つまり、世界レベルでの製薬会社側の事情や内幕を誰よりもよくご存じの方です。

 ワクチンというものは、病気の予防・あるいは重症化を防ぐ目的で開発されたものであることは、ジェンナーの発見した天然痘ワクチンである牛痘、さらにパスツールの狂犬病ワクチン、コッホの結核のためのBCGワクチンなどの効能で知られています。脳が陰謀論に汚染されている人であっても、こういったワクチンが、19世紀に莫大な死者を出した伝染病から多くの人を救ったことまでは否定できないところでしょう。
 しかし、近年、ワクチンを打ったことによる「副反応被害」もまた、取り沙汰されてきています。

 植地ドクターが解説してくださったのは、まさにその、ワクチンとその副反応についてでした。

 まず、ワクチンを打ったから障害が出るというケースがある一方、ワクチンを打たなかったから病気になるというケースがあるということ。
たとえば、昭和30年代の日本でポリオ(小児麻痺)が大流行したとき、当時のソ連からの緊急輸入で子どもたちにワクチンを打ち、その発生をほとんど止めることに成功した一方で、副反応で障害が残ってしまった子どもも少数ながら出たという史実です。

 ワクチンによって、病気で死ぬ可能性があった何千人、何万人を助けることができる。しかし逆に、ワクチンを打ったことによって健康に生きていた子どもが、副反応で障害が残ってしまった...こういうこともあるわけです。

 ではどちらを取るのか。
 すなわち、病気になって問題が起きてしまうことを避けるためにワクチンを予防接種をとして打てば、必ず副作用で被害が発生し、そこにゼロリスクはあり得ない。しかも、これは誰が被害者になるかは完全にわかることはありえない。

 これを、英語で、デビルズ・ロッテリー、「悪魔のくじ引き」というふうに言うのだそうです。
ドイツなど欧米では、キリスト教的な考え方で、その「悪魔のくじ引き」に当たってしまって、ワクチンによる副反応被害を受けた人は、国民全員を守るために犠牲になってくれた、だから国民全体でもって保障してあげなきゃいけないという考え方をするそうです。

 一方、日本では、戦争直後の衛生状態も栄養状態も悪かった時代に、GHQ主導で予防接種法が制定され、義務としての予防接種が強行されるようになっていました。

 そのような状況の中で、2つの問題が起こります。

 1つは、1973年の大腿四頭筋拘縮症事件。山梨や静岡などで、筋肉注射をした子どもが、それが原因で歩けなくなってしまったという医療事故です。これは、その原因が筋肉注射そのものにあったわけではなく、当時の日本の技術レベルと薬品の問題であったことが後に明らかになるわけですが、1976年、日本の学会はできる限り筋肉注射を避けようという勧告を出し、それ以後、日本のワクチン注射は皮下注射が原則となります。

 2つめは、予防接種法が制定された直後に、ジフテリアの予防接種で、京都で乳児68人が死亡するという大きな事故がありました。それはワクチンの品質の問題で、これが原因で品質管理国家検定などが始まったのですが、では、ワクチンで何か問題が起きたときに原因は、医師の注射の手技が悪いからなのか、製造物(ワクチンそのもの)の責任なのか、それとも国家検定を行っている国の責任なのか、それとも強制的に打たせているのが悪いのかという議論は、日本の中ではかなり長い間、曖昧なまま行われていることになってきました。

 つまり、(必ず出てくる)副反応被害をどう捉えるか、被害者をどう救済するかという点についての議論がきちんとなされてこなかったため、現在、有効とされている副反応被害救済が、1990年の東京高裁の判決に基づいているのだそうです。

 この判決とは、厚生大臣の予防接種行政の「過失」に基づく国家賠償責任だという議論でした。不十分な予診のせいで、禁忌者、つまり、ワクチンに対する過敏反応や副反応を起こしやすい人を見つけられなかったのがいけない、という法理による高裁判決に対して、国側が被害者の早い救済のためにあえて控訴を行わなかったために、結果として、これがワクチン副反応の法理として現在も生きている。しかし、そこには、「デビルズ・ロッテリー」に当たってしまった人を救済するという概念はないわけです。

 その後、日本は予防接種法を改正し、1994年以後、ワクチン接種が義務から努力義務規定になりましたが、今度は、この日本の別の特殊性が問題になってきます。
現在、外国でのワクチンは筋肉注射が主流なのだそうです。ところが、日本では、1970年代の事故以後、筋肉注射を忌避してきたため、ワクチンも皮下注射のものしか開発してこなかった。ところが皮下注射では注射の位置が浅いため、腫れたり赤くなりやすい。それを避けようとすると、抗原性を抑えた弱いワクチンにならざるをえなかった。そのため、日本製のワクチンは効きが弱く、製薬会社から見れば、外国では売り物にならないものでしかなかった。

 一方、ワクチンは、一般的には、子どもに打つものなので事業規模が小さいうえに安価であるうえ、訴訟リスクも高いので、製薬会社にとってはメリットが少ない。なので国からの補助金で細々とやっていたというのが実情で、そこには新規の小さな会社が入る余地もなく、ワクチン開発の専門家も、現在はほとんどいなくなってしまった。
それらの結果として、コロナのワクチンがそうであったように、海外では5人入りとか6人入りとか12人入りのバイアルで供給するというのが普通になっていたのに、その技術も日本にはなく、パンデミック時のワクチン製造に必須である細胞バイオ技術も、日本には独自のものがなく、海外からの輸入技術しかなかった。

 つまり、日本は目を覆うレベルでのワクチン後進国だったわけです。そんなところにコロナ禍が到来したわけですね。

 ここで、植地ドクターは、治験に関しても触れられます。
ワクチンに限らず、全ての医薬品は、治験を行って、効果や安全性を確認しなければなりません。
そのうちのフェーズⅠは安全性の確認試験、フェーズⅡ は小規模での有効性確認試験と容量設定、フェーズⅢ が実際の検証試験とされています。
なので、製薬会社の新薬開発は、まずフェーズⅠの治験に入るかどうかを検討し、その結果を見て、フェーズⅡを行うか、さらに Ⅲ に上げるかを検討していく。この中で、フェーズⅢ が大規模治験であり、一番費用がかかるので、フェーズⅢに入る前の、フェーズⅠⅡ で効能を見分けたいというのが、普通。

 フェーズⅡの結果が有効性が少ないけれど、 Ⅲ で検証しますというようなことを言っているベンチャーなどがいるけれども、「それは、ほぼ嘘です」 と、植地ドクターは断定します。
「なぜかというと、Ⅱ で結果が出ないようなものは、Ⅲ に出したって絶対に結果が出ません。そもそも大規模臨床試験で試験をやらないと効果が出ないようなものは、効果が薄いからです」
さらに、鋭い舌鋒は続きます。
「それからフェーズ Ⅲ の結果を半年も待って発表しないで、ずっと検討しています。と言っているどこかの大学とかいろんなところがありましたけども、そもそも1ヶ月経っても結果発表できないものは、できないんです。こんなものは統計で事前に規定していますから、1週間以内に結果が出るのが当たり前で、それでできなかったらできません。それを1ヶ月も2ヶ月もずっと引き延ばしているのは、それは、統計解析上、負けたからです」
実名こそ出ませんでしたが、このとき、多くの聴講者の人の頭に、まさにそれをやっている、とある会社の名前が浮かんだ....かもしれません。

 さらに植地ドクターは続けます。
いま、製薬会社は、世界規模で、新薬の可能性のあるものを鵜の目鷹の目で探している。古くからある薬でも、そこに新しい効果が見つかれば、リポジショニングといって、いくらでも価値が付けられる。なので、古くて安い化合物だから、商売にならないから日本の会社はやらない、製薬会社は手を出さない、なんていうのは大嘘です、と。

 過去に比べて格段に情報共有のスピードが上がっている現代、世界中で自分ひとりだけが専門家などということはありえない。
もしそれが一つでも面白いもので可能性があると思ったら、必ず若い研究者が群れて、そこを研究する。
もしも「(世界中で)自分だけが専門家なんです」などと言っている研究があるとしたら、それはもう、みんなに見捨てられて誰も研究しなくなったものを、最後に残った人が一人しかいないということにすぎない。

「特許があるから他に誰もできないんです、他の会社が真似できないんです」と主張する会社もあるけれど、もしそんな有用な特許があるのなら、世界規模の大手製薬会社会社は何億円、何千億円、何兆円でも払ってその特許を使わせてもらう方向に動く。価値のある特許であれば、1つの化合物に対して、2兆円払ったケースさえある。何千億円くらいは普通に払うのだそうで。

 なので、特許を持つと称するそのベンチャーの小さな会社が何千億円のお金をもらっていないように、僕の特許だから他に使わせないというようなことは実際にはない。
いまや留学生のネットワークなども強く、今回のコロナワクチン開発でも、世界中で情報が一瞬にして共有されているわけです。

 植地ドクターの在籍しておられたアストラゼネカも、またワクチンを作っています。
これは、日本で主に使われたファイザーやモデルナのmRNAワクチンとは違って、ウイルスベクターワクチンです。英国のオックスフォード大学が開発したもので、作るのが非常に簡単で、小さな製造設備で短時間で作れる。だから、パンデミックの初期に、実は、世界中で当初一番多くの国で使われていたのはアストラゼネカのワクチンだった。しかしそれですら、日本には、国内生産のための満足な細胞培養の製造設備はなかったというのが実情だった。

 なお、このワクチン生産に関して、アストラゼネカは利益を取っていないとのこと。
アストラゼネカ社としては、当時、コロナ禍のようなパンデミックが起こった場合、一カ国が集中して大量に作るというやり方をすると、ワクチンの争奪戦が起きてしまうことを恐れ、普遍的な技術でどこの国でも作れることを目指していたのですけれども、そういうことは多分あまり報道されていないので、今日ちょっとご説明をさせていただいたという形になります、と締めて、植地ドクターのプレゼンテーションは終わりました。

 続いて、国立遺伝学研究所の川上浩一教授です。

川上浩一国立遺伝学研究所教授の講演

 川上教授は、今回のCovid-19に関して、2021年3月に、日本で発生したと見られるE484K変異を特定。さらに、2023年4月にはオミクロン株の遺伝子変異を同定された方。脊椎動物における遺伝子組換え技術に関する研究で、今年の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞されている第一線の方でもあります。
 その川上教授、コロナ禍当初から、Twitterを通じて、検査の拡充を呼びかけたり、蔓延する医療デマに関して警告を発してこられました。今回の講演テーマも、「デマと非科学の3年間」というタイトルです。

 とはいえ、川上教授、民間の人たちが発していた、コロナは茶番だとか言う類いのデマは、それほど大きな問題ではないと。つまり、そのようなものは一笑に付せば良いレベルのもので、一部に真に受ける人がいるかも知れないとしても、大きな問題になると言うほどではないというわけです。
むしろ、今回のコロナ禍で問題だったのは、政府や政府の認めた専門家と称する人たちが、明らかに科学的に正しくない、つまりデマを吹聴していたということで、それは、研究者として許すことはできなかったし、きちんと声を上げていかなければならないと。

 具体的には、37.5度の発熱で4日間自宅待機、軽症者にPCRは勧めない、PCRの感度は70%説、さらには、これはGoToトラベルや五輪で感染拡大しない、コロナは空気感染しない、無症状者からは感染しない、抗原検査にはPCR検査と同等の性能がある、コロナはインフル並み、ワクチンで感染が予防できる、といった、まさにこの2年間に耳にたこができるほど「公式に」言われてきたことです。
 そして、37.5度で4日間待機などというのは、この37.5度という数字になんの根拠もく、待機している間に重症化しない保証など何もなかったのに、これが指針とされた。挙げ句にそれは、「国民に誤解を与える表現だった」と、あたかも誤解であるかのような話にすり替えられ、うやむやにされた。
 さらに、新型コロナの確定診断にはPCR検査しかないのにもかかわらず、感染症学会関連が旗を振ってそのPCR検査を抑制してきた。軽症者への検査を推奨しないと明らかに声明を出した。
 結局、この(分科会のメンバーの)舘田さんは後に、自分が感染したときには、抗原検査陰性の後にPCR検査をして、なぜもっと早めにPCR検査をやらなかったと思うなどという発言に変わっている、との指摘です。しかも、その検査も、いつの間にか、PCR検査ではなく、PCR検査より、1000倍感度の悪い抗原抗体検査にすり替わってしまった。
 つまり最初の段階ではできる限りPCR検査を行わず、そういうわけにはいかなくなってくると、抗原抗体検査がPCR検査と同様である、PCR検査には大規模な施設が必要などというデマを弄してまで、まともな検査を忌避しようとしてきた。
 その結果、日本では、感染をきちんと把握することができず、超過死亡も後遺症も増加してしまったし、まともなコロナ認定がなされていないので、後遺症の人たちへの救済や補償も難しくなった、ということです。

 無症状者から感染しない、空気(エアロゾル)感染しないというのも、ずっと感染研が認めてこなかった。
 また、データが異なる方法で収集されているために直接比較するべきではないようなデータをあえて並べて、あたかも新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの致死率が同等、だからオミクロン株はインフルエンザ並みであるというような報道がNHKなどから流された。
実際は、それどころではなく、インフルエンザの死亡者数は、1年当たり3000人強で、しかも、2020年にコロナ禍が始まって、我々が自粛やマスクをした結果、インフルエンザの死亡者は約10分の1程度になっていて、2021年では年間わずか22人にまで激減している。それに対してコロナが、オミクロンで死亡者が増えて、14000人以上。
 どう見ても、コロナはインフルエンザ並みではないのに、そんなことが、政府とマスコミによってこぞって喧伝された。

 さらに療養機関も、当初、10日間だったのが、7日、5日とどんどん短縮してきた。いまでは、マスク着用の推奨すらなくしている。そのたびに、都合の良いデータを採用して、恣意的にそういった数字が流されてきている。もちろん、保健所のいう5日なり7日過ぎに検出されるウイルスは死骸で感染力が無いなどというのは、明らかに科学的に誤っている。

 そういった政策の結果、日本の死亡者はアジアの平均より低かったのに、ある時期からアジアの平均を追い越して、人口当たりの者数がアジアの中でも劣等生になってしまっており、最近12ヶ月に至っては、日本は欧米諸国と同じくらいの数だけの人が死んでいる。そして今、また第8波と第9波が起きている。

 これこそまさに、陰謀論でも何でもなく「マスコミが報じていない、とんでもない真実」です。
 では、どうすればよいのか。
 今、治療薬が複数出てきていますが、インフルエンザにおけるタミフルのような安価で、簡便な治療薬が開発され、また、ワクチンが副反応が少なくより効果的なものに改良されることを期待しています、と川上教授。
 何らかの理由でSARS-Covid が消滅したらよいけれど、そうで無い限りは、上記のどれかか、もしくは複数が達成されるまでは、やはり気を緩めるべきではなく、感染防止のためにほとんど長所しかないものは、検査・マスク・換気であると。
 そして、長所と短所を考えながら、治療薬とワクチンを使って、なんとかしのいでいかなければいけないのではないか、とのことでした。

吉田統彦衆院議員の講演

 続いて三番手、吉田統彦議員です。
 吉田議員は、愛知一区、立憲民主党所属の衆議院議員ですが、同時に現役の眼科医として、昭和大学医学部救急医学客員教授、愛知学院大学歯学部眼科客員教授をつとめ、過去には、ジョンズ・ホプキンス大学で研究員もしていた方です。
 そして、プロフェッショナルの医師であり研究者であった立場から、国会でアンジェス社への莫大な補助金供与に対して疑問を呈し、追求してきた方でもあります。

 この吉田議員が、さっそく、アンジェス社の問題について語ってくださいました。

 大阪ワクチンとして、大々的に発表されたアンジェス社のワクチンは、2020年9月に、第Ⅰ、第Ⅱ相試験を開始、20年12月に第Ⅱ第Ⅲ相試験を開始したけれども、期待する効果が得られずとして、開発中止しています。
 これにかなりのお金が供出されていて、ワクチン開発に76.55億円、生産体制・緊急整備に93.8億円が補助金として出ているといいます。
 細かく書くと、2020年の5月21日にワクチン開発に採用されて25.61億円、8月8日にワクチン生産体制に93.8億円、その後、第二次の公募があって、新型コロナウイルス感染症COVID-19に対するワクチン開発ということで、約10億円と41億円ということで合わせて76.55億円と93.8億円の補助が実は出ています。

 このアンジェス社、遺伝子医薬開発を行う日本のバイオ製薬企業ですが、「そのファイナンスの姿勢から株券印刷業者とも呼ばれている」とWikipediaに書かれているような会社で、1999年当時、大阪大学医学部の助教授(いまの准教授)であった森下竜一氏によって、大阪府豊中市で創業された会社です。
 森下竜一さんというのは、現在60歳、医師・医学博士で、アンジェスの責任者である人物ですが、なぜか政府与党との結びつきが強くて、今、(大阪)万博プロデューサーもやっています。

 実は、吉田議員は、この森下氏を、実は昔からよく知っていたのだそうです。
 吉田議員は、日本抗加齢学会の評議員というのをずっとしておられますが、森下氏も同じく評議員で、理事。その口癖が「今度、安倍さんとゴルフに行くから、その時にこの件は頼んでおくよ」「それでOK。大丈夫。今度安倍さんに頼んでおくから」.....そういう台詞を、吉田議員自身が何回も聞いたことがあるそうで。
 ということで、安倍元総理と非常に関係が強く、週刊ポストの5年前の記事にも「首相(安倍総理)の悪だくみ人脈、ゴルフ仲間は医療界寵児と規制改革委員」と森下教授のことが紹介されているとのこと。

 あと、もう一つ、医療研究者の間では有名な話だそうですが、ディオバン事件という高血圧の薬に関して、データの捏造や調整をしていたという日本の研究市場でも唾棄すべき研究不正事件にも、森下氏は、審査をする側で大きく関わっており、普通なら、それだけで失脚するところを、なぜか、彼は今でも万博プロデューサーなどとして活躍をされている、という方だそうです。

 そして、議員の国会での質問。
 アンジェスがワクチン開発を大々的に打ち上げ、その後急速に失速したことで、株の暴騰・暴落を引き起こしたことについて、「インサイダーの可能性があるという指摘があり、やはり、第三者機関などの検証をすべきである。インサイダー取引のうわさをどう考えるか」と政府に尋ねたところ、大臣は、「インサイダー取引に関しては商品取引等監審会が適切にやるもの」で、自分たちは関係ない」と答えた。「厚労省は、今申し上げたように、補助対象事業が適切に実施されたか、これをしっかりチェックする必要があり、今後、必要な事後評価を行い、その結果に基づいて公表し、また必要な対応を取っていきたい」と。それから、もうだいぶ経っているけれど、まだ(公表も対応も)されていません。

 日刊ゲンダイの去年の記事では、アンジェスがワクチンの中止を発表し、吉村知事が府民から「あんたの責任になると言われている」と突っ込まれている、とあります。
 実際、「吉村知事は2020年4月の会見で、臨床試験の効果どころか治験実施の目処もついていないにもかかわらず、『実用化されれば10万から20万人単位で接種が可能』などと、前のめりの発言を続けていた。この煽り発言がきっかけかは不明だが、同社は75億円の補助金を受け、株価はあっという間に5倍以上に急騰。その結果の開発中止」ということだったので、正直な話、吉村知事にも責任もあるんじゃないかと多くの方は思っているわけです。

 ここで、吉田議員がパワーポイントで映し出したのが、吉田事務所の政策室が作ったという同社の株価推移表です。
 開発を始めると発表した途端、607円から上がってきて、ワクチン開発に採択されたら1780円、「オール大阪」発言したら、なんと2324円まで高騰していった、と。治験を開始した時も2044円で推移していて、それがだんだん怪しくなってきて、治験で十分な効果を得られなかったと発表したら、もう407円に下がってきて、開発中止で元の半分になってしまった、と。
「本当にこれを利用して株の売買を関係者がしていたとしたら、インサイダーですよね」

 そこに関する厚労省の最新の回答は、「第三者評価委員会において、アンジェス社が実施した事業に関して事後評価を行っており、その結果は今秋を目途に、できるだけ早く公表する予定です」「なお、インサイダー取引に関しては、証券取引等監視委員会云々」だそうです。

 アンジェスの他の株価操作疑惑についても、吉田議員はたたみかけます。「米国のスタンフォード大学との共同契約の締結を発表していますが、これについては厚労大臣としてどのような期待をされるのか」
 つまりアンジェス社がそのような発表するだけして、詳細につきましては決定次第お知らせします、とした。そして、追加の情報は今のところ見当たらない状態で、これも言いっぱなしということになっているのだそうで。
これに関しては大臣は「コメントは差し控えたいが、ワクチンあるいは治療薬、こういったことに積極的に取り組んでいただくことは大変歓迎すべきと考える」
 一般論でしかありません。もちろん、スタートアップは応援するべきでしょうが、ここで問題になっているのはそういう話ではないわけで。
 厚労省の方も「アンジェス社においてスタンフォード大学との共同研究が開始されることは承知していますが、その後の経過については特に承知していません」だそうです。

 そして本題のアンジェスが開発していると称したワクチン。
 先だって、植地ドクターが具体名を挙げることなくさりげなくコメントされていた、「(世界中で)森下氏だけが専門家で」「独自の特許を持っている」と大々的に打ち上げ、日本のマスコミが「日本スゴイ」とばかりに、こぞって取り上げていたDNAプラスミドワクチンです。

 元研究者でワクチンにも詳しい吉田議員の舌鋒が炸裂します。
「DNAプラスミドワクチンというのは、歴史上ワクチン開発で用いられたことはありません。抗体産生能が低いということは指摘もされているし、森下さん本人がそう言っています。審査期間もたくさんあったにもかかわらず、厚労省やAMEDはなぜアンジェス社のワクチン開発を採択したのか。元々、DNAプラスミドワクチンは実用困難ということを、厚労省は気づいて知っていたんじゃないか」という質問を国会で直接しました。
 実際、2022年4月、世界で唯一、DMプラスミドワクチンを使ったインドのデータで、チャンピオンデータ(通常は出ないような最も効果の顕著な結果)の有効率が、3回接種で一応67%だった、と。
 なので、「局長に聞いたんですけど、このインドでのDNAプラスミドワクチンについて、厚労省内でどのように評価されているのか」「このデータで法改正(薬機法)で薬効が推定されるようになるか」と聞いたら、「まだ申請のないものについては、評価等を差し控える」という回答だった。
 それで、大臣の回答は、このアンジェス社のDNAワクチンの採用を決定したのが8月だが、申請に基づき決定したもので、「実用困難かどうか、私は知らない」
 吉田議員、激おこです。「大臣が知らないのでは、誰が知っているのか、ちょっとわかんないですよ。ここまで言われちゃうと。本当にかなり大臣の答弁はブレるし、まあ、もうなんとも、はっきり答えたくない、というのが明らかなんですね」

 最新の回答では「厚労省のワクチン生産体制等緊急整備事業(94億円の金額の高い方)は、外部専門家業評価委員会が行われて、事業の重要性や事業の実現性、速攻性など専門的、学術的観点から評価していただいた上で、厚労省として総合的な評価を行い、採択を決定しています」
 だそうですが、先に川上教授が指摘されたように、この政府の呼んでくる専門家というのが曲者で、本当にその分野の専門家かどうかはわからないというわけです。
(そういえば、司法改革の会議である「検察の在り方検討会議」委員に、外部専門家として、なぜか競馬エッセイ書いてた騎手の女房の人が選ばれたりしていましたっけ。)

 それにしても、この94億円は、皆さんの税金ですから、実際にワクチン開発にどれくらい使って、どれくらい残ってるか。その回答は、
「アンジェス社に対するその補助金については、今後それぞれの事業について事後評価をまた行い、補助金の使途について確認して、事後評価完了した際に公表されるものと承知しています。それを踏まえ対応していくことになります」
 まあ、一応評価はすると言いながら、なかなかデータを出してこない、ということです。
参考人として、厚労省の役人にも同じ質問をされると、こちらは「今年度内には評価を終了する予定になっております」。
 両方とも「それから生産体制の緊急整備事業に対しては、今年度内に評価を実施する予定にしております」と。

 報道では、これらの補助金は「ほとんどハード整備に使われていて、基本的に戻ってこないだろう」と、毎日新聞が書いています。
読売新聞は「厚労省は『適切に使用されていれば返還の必要はない』としている」と書いていますが、まあ、政府がこういう答弁をしているということですが、もっと怪しいのは、厚労省最新の回答です。
「第三者評価機関において行っている事後評価においては、基金管理団体による経理調査の結果も含めて評価を行うこととしていて、今秋を目処に公表する予定」と。
ということは、秋にデータが出てくるので、(海堂)先生が小説書かれるなら、秋のデータを見てからですね。

 吉田議員のツッコミはさらに続きます。
「(議員)レクの際、アンジェス社の役員報酬を確認して欲しいと申し上げたが、確認したか。また、役員報酬は適正だと考えますか」
 回答「アンジェス社の有価証券報告書によると、取締役は3名おられるようで、この3名に約6000万支払われています。その水準については、個別企業なんで、(厚労省が)とやかく言う立場にない」
しかし「アンジェスは赤字会社ですね。これだけ払われることは、適正でしょうか」
厚労省「役員報酬の具体的な額に関してはお答えした通りですが、経営に関することはお答えする必要はありません。

 (助成金の使い道は)最初の募集のところに、人件費は対象経費とならないと書いてあるそうで、つまり、役員報酬や運転資金にしてはならないはずです。なので、
「今回、ワクチン開発のための助成金使途については、ちゃんと厳格にやってくださいよ。よもやアンジェス社の運転資金や役員報酬に使われたとか、そういうことはないですよね」と念を押されたそうですが.....。

 そもそも、アンジェス社にワクチン開発能力があったのか。「ワクチンを開発する開発体制や能力が整っていたかどうか、それをちゃんと評価したのか」ということに関して、AMEDや厚労省は責任を持てるのか。(植地ドクターは、実質、無理と断言しておられましたが)
参考人である厚労省の役人は、「具体的な企業の状況は企業の情報であるため答えは差し控える」としたうえで、「ちゃんと開発能力があると外部の専門家たちは厳正な評価をしたから、そういう結論になったと理解している」「事業の重要性、実現性、即効性などから評価していただいた」から採択したと回答しているそうで。

 それからもう一点。
 アンジェス社が唯一、製品として開発成功したことになっている「コラテジェン」ですが、吉田議員によると、「ちゃんとした有効な数字は出ていない」だそうです。なんと、たった6例だけのデータで、期限付き早期承認制度で認められちゃったのだそうで。しかも、安全性は確認したが、品質とは有効性については、推定するというだけの代物だそうで。なぜか、こんなふうに、アンジェス社というのは昔から優遇されていたんですね。
このコラテジェンに関しては、今後、PMDAで判断しますということで、「期限付き」の期限がきたので承認申請がまた出てきたら、それに対して適正な評価をします、と回答してきたそうです。
なお、厚労省の、少し前までの担当官が、あの大坪さんだったとか。

 あの医系技官の大坪さんですよ。和泉洋人前安倍総理補佐官と京都お手々つなぎ出張やコネクティングルーム宿泊で「公費で不倫」と問題になった、あの「異例のスピード出世」の大坪さんです。うわぁ。(八木註)

 今や健康局長にご出世された彼女が、私がこの(アンジェスの)話をやるとなると、何回も何回も吉田議員の部屋に来て、「とにかく、あの時には、もう藁にもすがる気だったんだと。だから、もうこれも効くんじゃないかと思って採択したから勘弁してくれ」「とにかく、国民を救うために藁にもすがる気で効くんじゃないかという思いがあったんで、決してそんな何か忖度や、そういうものがあったわけじゃないですよ」というようなことを熱弁振るっていらっしゃったのだそうで。
で、吉田議員が「本音では、効かないのはわかってたんじゃないの」って言うと、決まり悪そうな顔はされておられたそうで。

 ということで、まさに血税をドブに捨てたようなアンジェスワクチンに関して、吉田議員はこう締めくくられます。
「厚生労働省が本当にこのアンジェス社のDNAプラスミドワクチンが効くだろうと思って採択をしていたとしたら、それはもう、今、諮問している専門家たちには相談しない方がいいですよね。このアンジェス社の製品を、本当に公正な目で見て採択をしたということであれば、(諮問機関は)もう機能してないですよね」
 まさに、このアンジェス問題は、森友・加計学園と本質がそっくりであると。

 それはまさに、私が以前ブログで指摘したのと同じご見解だったのでした。

 そして、医師であり人気作家の海堂尊氏のプレゼン、さらに、この4者の白熱のディスカッションへと続きます。

海堂尊氏の講演

 東中野セントアンジェラ・クリニックの植地泰之院長、国立遺伝学研究所川上浩一教授、吉田統彦衆議院議員に続いて、医師であり作家の海堂尊氏の登壇です。
 海堂尊氏は、医師であるとともに、作家としては映画化やドラマ化もされ累計1080万部という大ベストセラーとなった「チーム・バチスタ」シリーズで有名な方。
 そのバチスタ・シリーズ最新作という形で、このシリーズ登場人物を登場させて、日本のコロナ対策を痛烈に批判した「コロナ黙示録(2020年)」「コロナ狂想録(2022年)」「コロナ漂流録(2022年)」のコロナ三部作をコロナ禍の中で出版もされています。
 その海堂氏は、1997年、外科医から病理医に転身して、当時最先端だったPCRの研究で博士号をとられています。

コロナ黙示録

 個人的な話になりますが、八木はコロナ禍初期の頃、別件の打ち合わせでお会いした海堂氏に、後に問題になる医療記事を参考に「PCR検査って感度が70%ぐらいで、擬陽性などが出るらしいですよね」などと口走ったがために、海堂氏の眦がキリッと上がり、そこに直れとばかりに、喫茶店で紙ナプキンをメモにPCRの原理について懇切丁寧なご説明を受けたことがあります。

 なので、政府が最初の頃に言っていたPCR検査の問題点というものが、もうめちゃくちゃだということをよくわかっておられたと。そのレベルの低いデマや行き当たりばったりの対策に対する医師としての怒りを原動力として、コロナ三部作を、それぞれ執筆期間2ヶ月ぐらいで書き上げたのだそうです。結果として、この三部作は、フィクションでありながら、それぞれ当時の空気を濃厚に反映した記録となったわけです。
 まず、第1フェーズとして、「謎の病原体」としてのコロナが登場したとき。
 川上先生と同じく、最初にPCR抑制をやったのは、これはもうとんでもない話だと。
 すなわち、衛生学の基本はすごくシンプルなもので、感染症が入ってくる前、つまりゼロの時に完全にシャットアウトする。
 実際に、日清戦争の後で、北里柴三郎先生と後藤新平大臣が検疫システムを一生懸命作ったおかげで、コレラが入ってくるのを、見事な検疫で防いだという例がある。
 ところが、そういった経験が全然生きておらず、令和の日本はそこがザルであった。なぜなら、コロナを判別するちゃんとした検査はPCRしかないのに、そのPCRを症状がある人に適応することができない仕組みをわざわざ作った。しかも、その問題を指摘されても直そうとしなかったことです。
 保健所とクリニックを何往復もさせられたという初期の設計などは、これはもう衛生学的にも馬鹿じゃないかと思えるような話だと。

コロナ狂騒録書影

 第2フェーズは、感染がもう広がってしまって、もはや排除できない状態。つまり、共生の段階といえます。
 そうすると、ワクチンを打って感染予防をしながら、重症者をちゃんと引き取る病院システムを作り、さらに、社会全体で感染をできるだけ抑止するようシステムを作らなければなりませんが、これらの仕組みも、終始一貫しておらず、もうぐちゃぐちゃだったと喝破されます
 つまり、菅政権の時代、五輪を強行するかしないかということで揉めたあげく、結局、五輪をやって大パンデミックになって、医療崩壊してしまった。
 そもそも緊急事態宣言をして人流を止めようとしながら、五輪をやる。これは論理破綻だと。

 さらに今の岸田政権というのは、レッセフェール、何もしない、なすがまま。第9波と言われていますが、それが本当なのかどうかというのも疑問だと言われると、誰も答えができない。
 一つ画期的なのは、今回のコロナ禍では、ワクチン開発がすごく早かったことだと。
 コロナの分子塩基配列が発見された直後に公表されたのは、1997年に分子生物学を研究していた海堂氏としては、時代がここまで進歩したんだと本当にびっくりするような話だったそうで、その速やかに公表された塩基配列を元にワクチンができたわけですから、そこのところはすごい大変な科学の進歩によるものだったと思われた。
 これらワクチンが果たしてそれほど有効だったのかどうかという疑念もいろいろ出ていますけれども、おおむね統計学的な解析によれば、ワクチンはコロナの抑止に大変有効だったのではないかと言われているけれど、一つ、残念なのは日本は色々と感染者などを調べていましたし、ワクチン接種もきちんと管理してやっていたわけですから、その人たちの追跡調査をすれば、本当にワクチンの効果というものが客観的に調べられたはずです。
 でも残念ながら、厚労省や政府はそれをきちんと学術的に解析するような土台を作ってこなかった。
 これは、前々から言われていたことなので、無理だろうとは思っていましたが、非常に残念です、と。

 そして、大阪。
 大阪は非常に危険で、皆さんも忘れている人も多いのかもしれませんが、とにかくアンジェス社が出てきた時から、海堂氏はこれは相当ヤバいなと思っていたのだそうです。
 いまも忘れられないイソジン事件に雨合羽。イソジン吉村に雨ガッパ松井と呼ばれているという.....そんな彼らがアンジェス社を持ち上げて、オール大阪などと言って国産ワクチンを作ろうと打ち上げたわけです。
 でも、結果としては1年後にはワクチンの有効性を確認できず、仕切り直しと言っている。そして2年後にはコロナワクチン開発断念。

コロナ漂流録書影

 ここで海堂氏の怒りが。
「これはですね、私は物書きで、他の先生方と違い、あまり責任がない立場です。まして特に国からお金をもらっているわけではない。
 なので胸を張っていますが、控えめに言って、100億円の税金泥棒だと思います。こういったシステムを許してはいけない。これが私の今の基本的な怒りの感情です。なぜかというと、その100億円は、皆さんがお金を出した税金が原資です。我々のお金です。
 我々が、例えば吉田(統彦)先生の話を聞いて、アンジェスみたいな会社にワクチンを作ってくれるためのお金を出そうと思いますか?そ ういうシンプルな話です。ところが厚生労働省や政府が絡んだりすると、そういうふうにシンプルにいかない。なぜか知らないけれども、おかしなことにお金が使われる。
 その結果、五輪でも相当無茶なお金の使われ方をした。その再来、というか繰り返しで、大阪万博でも同じことが起こるでしょう。
 これは断言します」
 海堂氏は2011年に「ナニワ・モンスター」という小説を書いておられて、この本は、コロナが最初に流行った頃に、今の現状を予言した書ではないか、と話題になったことが一瞬ありました。
 でも、海堂氏によれば、これは、2011年当時の豚インフルエンザの体たらくをできるだけ厳密に描写した作品だったのだそうです。
 つまり、この2011年に厚労省がやったことが、コロナで同じように繰り返されたのです。
 ということは、例えば10年後に新しい感染症が来た時に、きっとまた同じことを繰り返すのではないか。

 海堂氏が基本的に厚労省を信用していないのは、Ai(オートプシー・イメージング)というシステムを死亡時医学検索で導入しようとしてきたときの経験が基になっています。
 Ai(オートプシー・イメージング)とは、ご遺体をまず画像診断するというシンプルなことで、当時、死体を調べる検査法としては解剖しかありませんでしたが、それがわずか1%しか行われていない状態、つまりシステムとして崩壊していた。そこで画像診断をしたら、システムが建て直せるだろうと思ったのだそうです。
 つまり、検案とAiを一体化して、Aiセンターで画像診断して、解剖を振り分けるという方式です。画像診断をやれば解剖しなくてすむ例も出てくるわけです。しかし、結局それは頑強な抵抗に遭って拒否されて、複雑怪奇なシステムが生き残り、その従来のシステムのところに補助金を入っている。
 2010年に日本医師会が、年間5000人の小児死亡例全例にAiをやることは5億円の予算でできるので、これでかなりの小児虐待がわかり、抑止につながるだろうという答申を出してくれても、厚労省はこの提案もうやむやにした。
 こういった年間5億円のお金を渋るのに、なぜ、アンジェスみたいな会社にぽんと100億円を出すのか、というのが基本的な怒りがあるのだそうで、結局、衛生学の基本を無視した政策が社会を混乱に導いたということは、ほぼ間違いなく言えることです、と。

 最後に、権力監視の役割を怠ったメディアがこうした情勢を助長していることにも言及されました。
 海堂氏がニュースZEROという番組に出演した時に、当時の安倍内閣の政策に批判的な意見を言おうとしたら、プロデューサーの人がいろいろと手を変え、品を変え、直前の打ち合わせで話を変えていって、結局その発言は封殺されました。
 また、日経新聞のウェブサイトで連載をしていた時、厚労省のコロナ対策に批判的なことを書いたら、健康サイトではそういうことを書くなと言われた。
 そういうようなことが行われているのだと。

 つまり、メディアの権力に対する忖度がこのようなことを助長していることは間違いない、 逆に言えば、メディアが堂々と権力を批判すれば、日本はまだ良くなる可能性があると思います、と。
「大阪の問題点は、維新がテレビメディアと一体化して政権を維持している。しかも、結果責任を取らない無責任行政である大阪万博、大阪カジノの強行で、大阪はディストピアとなるであろう....その時、張本人の人たちは責任を取らず、きっと高みの見物をする。これは、海堂の予言です」

 明治大学シンポジウム、休憩を挟みまして、ここから、不肖八木もコメンテーターとして加わってのディスカッションに移ります。
 この内容はあまりに濃いので、書き起こし形式でお送りします。

パネルディスカッション ワクチン〜機能性表示食品

【八木】
 今回のシンポジウムは、すでに開始前からそちらの講演者席のところで、登壇者の皆様が熱い会話をなさっておりまして、そして、この休憩時間の間にもかなり濃い話がなされていまして、それがそのままこちらの後半でも熱いお話になると思いますけれども、ちょうど話題になりましたアンジェス社、吉田先生がいろいろコメントしてくださいましたけど、この発端というのは2020年の4月14日ですね。
 この日に吉村知事と松井市長が会見を開いて、オール大阪でワクチン開発を進めるというような発表をしていますが、この時点で、臨床試験を大阪市立大病院で7月から始めるというような、かなり具体的なことまで言っているんですね。さらに、そのちょっと後の5月1日には、アンジェスの創業者でメディカルアドバイザーで大株主である、件の森下竜一寄附講座教授が、3月24日にDNAワクチンは完成していて、それも「20日で作れたのは世界最速です」とまで、ビジネスインサイダーという雑誌で堂々と言ってます。
 これを皮切りに、かなりいろんな雑誌が特集記事を組んで、一気に盛り上がります。吉田先生もさっきおっしゃっていたように、アンジェスの株価が200円だか300円ぐらいだったのが、いきなり爆上がりということになるわけです。
 Wikipediaに書かれていて、吉田先生も言及されていた「株券印刷業者」というのは、これはどういう話かと言いますと、株をやっている人の間ではかなり知られた話だったんですけれども、アンジェスという会社は一応創業10数年あるんですけれども、その間、まともな薬を一つも開発できていないんですね。
 唯一開発した薬というのがコラテジェンという、吉田先生がおっしゃっていたものですけれども、これもまさに、ほとんど効いているのか効いていないのか分からないような状態であるにもかかわらず、条件付き早期承認制度という、これまた安倍さんが特別に作った制度で、しかもその第1号としてコラテジェンが通されているという非常に不思議な話です。
 なので、薬価もあまり高い値段がつかなかったという、そういう薬をたった1個開発したというだけの会社なんですけれども、なんでそんな会社が19年も保ったかというと、コラテジェンの時もそうだったんですけれども、新薬がもうすぐできるという発表をやるんですね。そしてその時にワラント債というものを発行するわけなんです。
 そうすると、それを信じた投資家がバーッと買い、株価も上がると。ちょっとして熱が冷めちゃうと、またそういう話題を作って、ワラント債を発行したり新株発行したりするんですけど、それを19年間で34回もやっているわけです。
 こうなってくると、そもそもこれを許す証券取引所もいかがなものかというような話なんですけど、そういうことをやって会社として存続しているので、株に詳しい人たちの間で「本業・株券印刷会社」と揶揄されているという、そういう会社だったわけです。
 実際にワクチン開発の発表をする前の段階では、アンジェスがどんな状況だったかというと、営業利益がマイナス32億7千万円ですよ。売上高がマイナス92.4%という状態になっていました。こういうIR情報は、投資家向けにホームページに掲載されていて、ダウンロードできるようになっているんですけど、その事業報告に「企業の継続の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しております。」と書いていた。それって簡単に言ってしまうと、当社は倒産寸前ですと言っているようなものなんですね。
 そういう会社が、その直後になぜか株式を分割して、そしてさらに、その直後にワクチンを作ります、もうできました、みたいな発表をして、株価が劇的に上がった。これっていうのは一体何なんだ、という話でもありますよね。

【吉田】
 さきほどご説明にあったとおりで、本当に悪質ですよね。
 安倍さんも故人になられてしまったので申し上げたくないんですが、特別な関係の下で、これは本当に、政府、政権が一番やってはいけない政治の私物化ですよ。
 日本は成熟した国家ですから、本来こんなことがあってはいけない。だから、私は本当にどこの国の出来事だろうと思います。
 ですので、海堂先生もおっしゃったように、こんなことを二度とさせないシステム作りが大事だし、やはり審査の過程をもう少し開示させるということはこれからルールとして必要でしょうね。
 厚労省は、振り返って開示させるなんてことは、絶対しないですから。あれは適切だったと言い張るだけですから。だから、しっかりやらなきゃいけないと思います。
 この先、どうなるんでしょうね、あの会社ね。本当にスタンフォード大学と提携したとかいう話だってね、その後、全く何も出てこないわけですし。
 本当に国費を大量に入れて、その結果がちゃんと得られなかったことは、やっぱり一定程度の責任を取ることと、しっかりとした訴求して、解明することは必要だと思いますよ

【八木】
 私は、大変不思議に思ってるんですけれども、例えば、製薬会社が補助金などを受けた時に、普通、例えば研究機関でしたら、その補助金を受けたら、かなり細かく領収書を出したりとかしなければいけないというふうに、私の知っている研究者の方なども、もう本当に細かいところまで追及されるみたいなことを言われるんですけれども、製薬会社にそういう補助金が出た場合に、精査されるってことはあるんですか、植地先生?

【植地】
 いくつか申し上げますと、この時の補助金はかなりの事前審査だったんです。だから科研費なんかとは違った形です。
 科研費は、例えば「こういう研究しますが、具体的に何に使うか分からないので、500万円ください」とお願いして、そこから領収書で後で精算していくタイプのものですね。
 一方で、この時のワクチンへの補助金は、何々に使いますっていうのは、先に製薬会社が、全部リストを出してます。
 いろんな製薬会社がワクチンの製造関係で、補助金をこれ以外にももらってますから、その時にはもう(金額を)出してるんです。
 ですから、それが妥当だったかどうかっていう話になるとは思います。
 ただ普通に考えて、僕はアンジェスさんの内情を知ってるわけじゃないですけども、90億円の製造設備とかっていうのは相当バカ高いなというふうには思いますし、臨床試験にしても、規模から考えると相当割高だろうな、と。
 あと、ちょうど2020年の4月ぐらいの話というと、世界中のワクチンメーカー、世界中の製薬会社がありとあらゆるワクチンを探しまくってた時期なんですね。日本でも、実は私たちアストラゼネカがオックスフォード大学と共同してやってましたけれども、他の日本のメーカーもいくつも手を挙げてます。それだけじゃなくて、アメリカでもワープスピード・プロジェクトでモデルナもやってますし、その他ビオンテックとかノバマックスとかいろんなところが、世界中でどこと組んでいくんだろうかっていう形で、毎日のように国際会議をやっていたような状態の時期です。
 その中で、少しでも可能性のあるものであれば、ほぼ多分、僕は知っているはずなんです。例えば、コロナは不活化ワクチンは効かないって言われていながらも、中国のシノバックとかシノファームとかは不活化ワクチンを出してますし、日本でもいくつも不活化ワクチンの候補物質を持ってた会社もあります。ただ、効果を考えると、やっぱりファイザーさんとかアデノベクターワクチンに比べると効果が悪いということで開発を中止したものもあります。
 そこまででも、ちゃんとデータを持っているところもあるんですね。
 ところが残念な話というか、僕は、アンジェスさんのことを直接言及する立場にありませんけれども、少なくともあの時点で、DNAワクチンが有効性が予想できると考えていた海外のワクチンの開発関係の専門家は誰もいません。
 少なくとも、あれに関しては、何言ってんだろうっていうのが我々の考えですし、少なくとも、当時、DNAワクチンが少しでもモノになる可能性があるのであれば、世界中でどこかの会社が必ず手を出している。だけど、誰も手を出さなかった........というのは、一応、僕だけが言っているわけではなくて、世界中の標準から考えても、(そこにお金を出すのは)おかしな判断だったというのは分かってくださると思います。

【八木】
 ただ、現実に、まさに大阪ワクチンの発表があった後に、森下さんが散々いろんなインタビューに出て、世界で自分だけが特許を持っているとか、独自技術で他は真似はできないみたいなことを散々おっしゃって、それをまたマスコミがどんどん垂れ流すことによって、何も知らない人にとっての期待値が上がって、たくさんの人が株を買い、株価がものすごく上がる、という、そういうことが実際に起こってしまったわけですよね。
 「世界で唯一の特許」とか、「自分だけができる」というのがどんなにうさんくさい話か、というのは、さっきの植地先生のお話でよく分かりましたけど、もう一つ非常に引っかかる話というのが、森下さんは、4月に発表して、5月にはもう治験が始まったというふうなことを、この時点でおっしゃっていたわけですから、そうだとしたら、2020年の秋ぐらいには、治験の結果がどうなっているのかとか、開発状況がどうなっているのかというのを、責任者の地位にある人だったらかなり心配しているという状態だと思うのに、なぜかまさにその20年の11月に、森下さんが何をなさっていたかというと、なんと映画を作っているんですね。「日本独立」という改憲推進映画のプロデューサーになっていらっしゃった、と。
 これ、文春によりますと、森下さんがこの映画に5億円出したという話になっていますけど、そのお金が一体どこから出たんだろうみたいなことも、勘ぐらざるを得ないというのも一方として、11月の段階で、予定から随分遅れているのに、まだワクチンの結果がぜんぜん出ていない状態で、なんでこんな映画を作る余裕があったのか。そしてさらにその翌年の2021年の2月に万博の総合プロデューサーに就任なさっているとは、本当に何を考えていらっしゃったんでしょう。
 そしてその結果として、コロナワクチンの開発断念というのが正式に発表されるんですけど、この時の記者会見に出てきた資料というのが、これがすごいんですよ。「安全性◎、免疫耐性△」っていう、ただこれだけでデータとか一切ないんですよ。普通、データってきちんと発表するものですよね?

アンジェス社公表資料

【植地】
 子どもの発表ではないので◎はないと思います。夏休みの自由研究レベルだと思います。
 あと、こういう臨床試験についてですが、コロナというのは短期間の病気なんですね。
 ワクチンの場合でも薬の場合でもそうですけども、例えば、発症までに長い時間がかかる慢性疾患の治験 ------ 病気になってから発症するまで何年もかかるというようなものと、例えば5日とか1週間とかである程度軽快してしまうというものでは、治験のやり方のデザインが全く違います。
 慣れない人が両方組むと、とんでもないプロトコルを組んじゃいますけども、コロナの場合には、1週間程度で病気が基本的には改善してしまうというものですし、アタック、つまり突然の発症がある病気です。
 ただ、2020年の夏というと、まだ国内ではそんなに大きく患者がいなかった時期です。ですから、この時期には、実はアタックの試験はできないんです。ということは、この時期にやるとすると、国内では、フェーズⅡの抗体価が上がっているかどうかをチェックする短期で行う試験しかできません。抗体価が上がっているかどうかということをまずチェックするのであれば、2ヶ月か3ヶ月あれば健常人でやれますので、ほぼフェーズ Ⅰでやると同じ規模なので、結果はすぐ出ます。
 これはエンドポイントが抗体価というハードエンドポイントなので、血液を取ってきて数値を測ればいいだけですから、解析にそんなに何ヶ月もかかるわけもありません。
 しかもエンドポイントは数字の平均値で出てきますので、必ず平均値プラスマイナスSDという形での有効性が評価されるべきです。ですから、その発表が ◎とか△ というのは、悪い冗談としか思えません。
 それと同時に、もし(治験を)やるのであれば海外では当時発症例がありますので、国内で抗体価の試験をやって、海外で感染予防効果のフィールドスタディという形で検証試験を組む、というのが順当な立場だと思います。
 そして、急ぐのであれば、同時進行で走らせるのが僕らの常識なんですよね。同時進行でやっておいて、2ヶ月でなるべく早く抗体価を見て、抗体価が上がっていくことを確認できたら、すぐに患者さんたちに投与ができるようにスケジュールを組みます。
 そういうスピード感というのが、全くないなというのはありますね。ワクチンの開発に全く慣れていないというのはよくわかります。

【八木】
 そもそもワクチンの開発実績がないんですよね、アンジェスには。
 ワクチン以前にまともな薬品自体の開発実績がほとんどないような会社なんですけれども....

【植地】
 海外から見ると、日本の早期承認制度、期限付き承認制度というのは、一時期、すごく魅力的に見えたんです。
 先ほども言いましたけれども、フェーズ Ⅲをやる、というのは、ものすごいお金がかかります。
 そうすると、フェーズ Ⅲ で莫大なお金を使って効果が出なかった場合には、全部、それは捨てたお金になります。
 だからもしも、どこかの国で、短い時間で実験的に承認をもらえるような制度があるならば、それを使って、早く(薬を)出したいと思うのは、僕らの本性です。
 ですので、例えば、海外で使っている再生医療用薬品があれば、日本にそんなにいい制度があって、短期間で実験的に承認が取れて、しかもそれで、薬価という形で診療の中で売ることができて、お金を回収しながらフィールドからデータを取れるのであれば、我々外資は、真っ先に飛びつきたいものです。
 でも、誰も飛びつかなかったんです。
 飛びつかなかったというのはどういうことかというと、あの制度、あまりにもおっかなくて。
 安全性も有効性も検証できていない段階で、推測だけで患者に使って、もし万が一のことがあったら、莫大な賠償金や訴訟費用を払わなければいけないだろうねというのがありますから、あんな制度はおっかなくて手が出せない、というのが最終的な結論だったんですね。
 でも、それをなぜあそこの会社が......そんな制度を使わなければいけない状況にあった人たちがいる、というのが、ちょっと不思議だなとは思います。具体的な内情は知りませんけど、
 それに関しては、あの制度を........他にはあの制度を追従していった人たちは数少ないと思うので、そこらへんもちょっと考えるべきというのはあると思います。

【八木】
 吉田先生、何かおっしゃりたそうですけれども

【吉田】
 再生医療に特化した制度ということなんですけど、我々もあれは当初反対もいたしましたし、今の植地先生の話ではないですけど、どこまで使える制度かということは、疑問を呈していた制度なので....
 ちょっと話はずれるんですけど、ただ日本の今回の制度のことじゃなくて、日本は今、デバイス・ラグ、ドラッグ・ラグ(※海外で既に承認されている製品や薬が日本国内での薬事承認を得るまでに長い年月を要するという問題)じゃなくて、ドラッグ・ロス(※海外ですでに使われている治療薬が日本では 開発が行われず、日本で使うことができない状況)になってきているんですよ。
 日本に上梓しない薬が、かなり世界中にあるということもありまして、日本の薬機法という法律を作ったのは ----- 私は責任者でやらせていただいたんですけど --- もう一度、ちょっと手を入れて、薬事のことをしっかりやらないといけないな、というのは本当に思いますね。

【八木】
 なるほど。ちょうど安倍首相がお亡くなりになった後に、この森下寄付口座教授が、M3という、お医者さんの専門の情報サイトに特別寄稿をなさっていまして、知り合いのお医者さんの方が私にそれを読ませてくださって、その内容に、非常にびっくりしたんです。
 この時にまさに、(安倍元首相の)ゴルフ友達であった森下先生は、安倍さんの功績をたたえていらっしゃるのはもちろんなんですけれども、とりわけ、安倍さんの偉業をたたえていらっしゃるのが、まさにこの、再生医療の促進という形での条件付き承認制度を作ったということ、医薬品のネット販売を解禁したということ、それから機能性表示食品の解禁をしたということですね。
 それからあともう一つちょっとびっくりしたのが、安倍さんのご病気というのが、潰瘍性大腸炎という ---- これ、不思議なことに担当の慶応大学病院の方では診断書を出していらっしゃらないのに、潰瘍性大腸炎というご病名になっていましたけれども -- これは森下さんの番組で初めて出てきた病名なんだそうですね。
 そのあたりも、とっても不思議だなと、ちょっと私は思ったような次第なんですけれども、とにかく、この寄稿文を読む限りにおいては、森下さんと安倍さんとのつながりが非常に強いものだというのがよくわかるのですが、この中でもう一点、引っかかったのが、この機能性表示食品の解禁という項目だったんですね。
 私は、この記事を読むまで、ずっと、トクホと機能性表示食品の違いというのを分かっていなかったんです。というか、多分、ほとんどの方は分かっておられないと思うんですけれども、トクホというのは、一応、消費者庁で試験を行うものなんです。ところが、機能性表示食品というのは、条件付き承認制度とちょっと似ていて、会社が自分でデータを持っていって通してくれと言って、その書式さえ合っていれば通っちゃうという、そういう仕組みなんだそうですね。

【吉田】
 機能性表示食品の危険性をずっと国会で何回も言わせていただいていて、機能性表示食品って、論文、何でもいいんですよ。それを付けちゃうと認められちゃうんです。
 私は、非常にリスクが高いので、ちゃんとインパクトファクター (Impact Factor) がある、英語の論文だとか査読がある、そういった論文でやるならまだ分かるけれども、変な話で、形式さえ整っていればなんでもいいのですから、そういう(申請者の)ストーリーにあった論文作るだけなら、海堂先生なんて多分5分ぐらいで作れちゃいますよ。
 だから、本当に、おっしゃるとおり、まさに似た問題なんです。
 恣意的にデータを作って、査読がない日本語の雑誌に載せて、それを根拠に申請できちゃうんですよ。
 非常にこれは危ないですよ。

【八木】
 私もびっくりしてネットで調べたんですけど、機能性表示食品に関しては、それ専門のコンサル会社とか、それに付随してそのコンサル会社のやっている怪しげな学会とか、学術雑誌と称する雑誌とかありますよね。
 ということは、お手盛りで、いくらでも論文を作れちゃうわけですよね。
 そんなことも知らずに、普通にテレビとかで広告をしていますし、当然スーパーとかでも売っているので、機能性表示食品ってちょっといいのかな、と思って、多分買っちゃってる人がほとんどです。私自身もそうだったので、大変びっくりしたんですけれども、それについて、海堂先生が、新作でけっこう書いていらっしゃいましたよね。

【海堂】
 そうですね。「コロナ漂流録」では、結構アンジェス.....じゃない、エンジェル製薬のそういう問題を書きましたけれども、基本はいままでの先生方のお話、みなさん、非常に誠実な言い方をされていますが、核心を言うと、結局、安倍さんがやった岩盤破壊っていうのは、基盤破壊だったんですね。
 岩盤じゃなくて、抵抗勢力でもなくて、日本社会の基盤を破壊する行為だった、と。
 治験制度にしても、これは、これまで築き上げてきた医学の基本なんですね。それをやることで薬害を防げるから、治験をやっていたのに、一番大切な第三層をカットして承認してしまう。
 これはぶっちゃけ暴挙なんですが、それを通してしまった。しかも岩盤破壊だと言って、華々しく打ち上げた。これは本当に日本の医療の土台を破壊したものだと思います。
それと同じで、機能性表示食品というものも、その話を聞いたときには、逆に、すぐに分かったんですね。
 同じ構図なんです。
 要するに、トクホは、まだ機能とか効能について、しっかりした裏付けをやっていた。だからなかなか(審査を)通らない。だけど、そこのところをいい加減にすれば、通せてしまう。そして通ってしまったらあとは野となれ山となれ。それを一番分かりやすい形で表しているのがアンジェスだと思うんですね。
 薬品を出して、審査を通して、華々しく打ち上げて、そして結果は知らない。アンジェス社の唯一の商品もそういうものです。
 だから、そこのところの責任の所在を明確にするために、色々と仕組みを作らなければいけないのですけれども、それを難しくしているのが、安倍内閣のもう一つの悪癖、つまり、公文書毀棄なんです。
 もう全部繋がっているんですね。
 だから、これによって日本社会のシステムは土台から根底に崩されちゃった。もう本当にどうしようもない。
 これを立て直していかなければいけないのですが、その時に病巣がそこだと分かっていれば、治療法がある。でも、病巣が分からないと、どんどん悪化するだけなんです。つまり、無責任体質の根源はそういったシステムにある。ここを何とかしないといけない。
 機能性表示食品あるいはワクチンの問題、こういったものが、全部、同じです。他の問題も全部同じ構図なんです。そう思うと、いろいろなものが見えてくると思います。

【八木】
 機能性表示食品って、食品だけじゃなくて物品でもありますよね。大阪万博の看板になっているシャワーとか。

【海堂】
 シャワーヘッドはミ○○ルというやつですかね(笑)。
 この間、テレビを見ていたら地上波で宣伝していたので、おったまげました。シャワーをするとアトピーが治るというのがあるんですが、大阪万博のサポーターの会社がやっていて、そこも相当うさんくさいというのは、週刊ゲンダイさんの記事でしっかり追っていられたと思います。

【八木】
 どんどんそういう情報は広げられるということだと思うんですが.....
 私は市民団体を主催していたりするんですが、そうすると、いろいろと細かい情報が入ってくることもありまして、その中でちょっとびっくりしたのがさっきの機能性表示食品なんですが、もちろん、全部が全部とんでもないということではなくて、中にはもちろん、ちゃんとしたものもあるとは思うんですが、実際には、データを作って厚労省に出して、その形が整っていれば通る、ということにはなっているんですが、出す側からすると、書式をそれなりに作っていても実際には通らない、そこはちゃんとコンサル会社を通してそこのある種のお墨付きをもらっていないと通るものではなくて、だから、結局そのコンサルの力を借りなければならなくて、そのコンサルの元締めが、抗加齢学会の、ある方だという話まで聞いたんですけれども.....。

【吉田】
 私も抗加齢学会の評議員なのであれですけど、他にも多くの方が評議員ですよねでいらっしゃるんですが、まさにそこに深く関与する学会なので、それはもうおっしゃる通りだと思いますね。
 本音を言うと、「機能性」というのは、医療に関わることを謳っていますので、本当は医薬品なんですよね。
 よくテレビで出る「個人の感想です」とか、あれは免罪符みたいに使われていますけど、あれも本当はアウトなんです。
 だいたい、飲んだヒアルロン酸が膝に行きます?(笑)
 ちょっと言い過ぎかもしれませんが、本当に健康食品とか機能性食品って、ある意味、効かないものを売って害すらあることがあるので、悪質な振り込め詐欺と一緒ですよ、本当に。そこまで、この日本の病巣は深いと思いますね。効きもしないものに、皆さんお金出させられて。あれは毒ですよ。いろんなものでスティーブン・ジョンソン症候群とか起こすので、大変なことが起こることってあるわけですよ。
 そんなものに、かなり高額なお金を皆さん払われますので、本当に、しっかり取り締まるようにと、私は、再三、再四、厚労委員会や消費者特務委員会で言ってるんですけど、根が深いのでね、ぜひ、海堂先生みたいに発信力のあるインフルエンサーに、ぜひそうやって暴いていただいて、これはやはり、国民の皆さん一人一人の、お考えが非常に大事なところなんで、啓発をしなきゃいけないと思いますよ。

【八木】
 そういう意味では、まさにアンジェス・森下先生は本当にいろんなことに関わっていらっしゃって、まるで、医療界の竹中さんみたいな感じが.....これは単なる個人の感想ですけれども(笑)、ちょっとそういう印象さえ持ってしまったりするんですが、でも、それにしても、基本的にこのアンジェスの問題にしても、機能性表示食品にしても、データが無視されている、まともな論文がないっていうことは、本当に驚くべきことだと思うんですけど、その論文がないっていうのは、そもそもどういうことなんでしょうね。

【川上】
 そうね。なんでそういうことが起きますかね。
 機能性食品っていうのは、ある働きがあるという論文と一緒に提出されるのか、それでそれが検証されなくて、コンサルが書くっていう話なのか.........だから、機能性食品というものにそんな価値を与えなければいい、みんながそれにお金を出さなければいいと思うので、そういう教育というか、そういうような周知をしていかなきゃダメですね。機能性食品には機能がない、と。
 でもそう言うと、最近の風潮だと、SNSだと(効果が)ないことを証明しろって言ってくるから、水掛け論になっちゃうんですよね。だから最初に言ったもん勝ちなんだよね。
 それで、ある程度、顧客をつかめれば、その人たちは商売になるからやってるんでしょうね。ただそれで、正当な医療とか正当な効果のあるものが、どんどん効果なくしてきますからね。そういう悪貨が良貨を駆逐するっていうそのものだから。
 そういう啓蒙活動をするとともに、そこを厳しくしなければならないのに、コンサルがやってるっていうのは、僕はその辺全然知らないんだけれども、あり得ないですよね。そんなものを論文って呼んだらいけないと思いますよ。

【吉田】
 あの、これは結構裏話なんですけど、厚生労働省ってエビデンスとして採用するときって、やっぱりインパクトファクターがちゃんとある一級誌を採用するんですよ。医療としてのエビデンスっていう意味では、日本語雑誌なんて価値はないとして、英文の一級誌のエビデンスを採用するんです。
 ただ、ひどい話がありまして、農薬って日本ってすごい規制が遅れてるのご存知ですか?
 EUとかで絶対禁止されてるようなやつを平気で使ってるんです。で、遺伝子に作用するって言われてるものも結構使っているんですが、なんと、農水省は、農薬メーカーが持ってきた論文で評価するんですよ。
 自分たちで、自分たちにいい都合のいい論文を選んで、それを農水省に持っていって、農水省はそれで判断する。これは色々事情があって、農水省から農薬メーカーに、ものすごく天下りしてるんですよ。で、その結果、日本の農薬メーカーは世界から二、三周遅れてるって言われてるんですよね。
 だから皆さんが飲まれているペットボトルのお茶、これちょっとこの会社の会長さん、僕よく知ってるんで言いづらいんですけど、農薬入ってますからね。EUで使われていない農薬が検出されますから。本当に怖いんですよ。子どもたちの世代に関して言えばですね。
 ただ、そういったのはもう野放図になっているので、私は、これも国会で質問したんです。エビデンスとしての採用の仕方のルールをちゃんと決めてくれと。そこを省庁できちんと統一して政府としてルールを決めないと、科学的な検証とか一切できないですよね。
 これは裏話ですけど、ちょっとお伝えしておきます。

【八木】
 今、お話を聞いていて、隣でペットボトルに伸びていた海堂さんの手がパッと....(笑)
 いまZoomで見てらっしゃる方も、同じような反応された方がいらっしゃるんじゃないかと思いますけども....

【植地】
 ひとついいですか。
 医薬品の評価なんかの場合ですけど、論文がどれだけ信用されるかっていうと、論文は実は信用されてないんです。
 なぜならば、論文は、誰でも、仮説であろうが何だろうが投稿できますし、投稿すれば載ってしまうからです。
 逆に言うと、インパクトファクターのある雑誌であろうがなんだろうが、新しいことを考えつきました、新しいことが分かりましたということで出して、あ、そうかもということであれば載るわけなんです。
 ですから、論文が掲載されたから、学会誌に掲載されたから、有名な雑誌に掲載されたから、その内容は事実かって言われると、そんなことはありません。雑誌に掲載された情報の 9割以上は、その後で間違いが指摘されます。
 臨床試験であっても、95%の信頼区間しか持っていません。どんなに大きな臨床試験をやっても、5%は間違いがあります。
 だから、一つの臨床試験を何回も何回も解析していけば、必ず「有効性」なるものをを作ることができます。
 先ほど、僕が臨床試験をやった後に、短い時間で結果を発表しなければいけないと言いましたが、あれはなぜかというと、長い時間をかければ、何回でも追加解析ができるからで、追加解析をすれば、必ずどこかで有効性を引っ掛けることができます。それはなぜかというと、1回ごとに5%の誤りを含んでいるからです。
 そういうことをやることで、例えば、都合の良い結果の論文を作って出すことができます。そういった論文は、査読があったとしても、その査読で検証することができないことがあります。たとえば、これは世界で初めてです、と謳えば、世界で初めてなんだから、みんなに知らしめるべきだよね、ということで、査読者はその論文に載せてしまいます。
 ですから、ネイチャーに載っているから、サイエンスに載っているからといっても、残念ですが、逆に言うとああいう雑誌に載っかっているものほど新しいものなので、後で間違いが見つかることが数多くあります。

【吉田】
 私も科学者なので、今、植地先生が指摘されたようなことはあります。
 ただ誤った論文や事実じゃないものに関しては、みんなが世界中で追試をするので、コメントとかがいっぱい付きます。
 だから、先生も学者ですからわかると思いますけど、間違った論文というのはいずれわかります。
 つまり、今、植地先生がおっしゃったのは、極端な例で、学者として性善説的にやるかどうか、ということなんです。結局、(まぐれで出たような)チャンピオンデータを出すからそういうことになってしまうわけで。我々は、都合のいいデータという意味で、チャンピオンデータと呼ぶんですが、僕は、自分で論文を書くときは、基本的にチャンピオンデータは一切採用しないです。もう徹底的に同じことを繰り返して確認できたデータしか出さない。
 で、繰り返しになりますが、私も世界で高名な学者が書いた論文にコメント付けたり、追試してできなかったことがいっぱいあります。
 だから、先生がおっしゃったのは、飽和的な研究のことなんだと思うんですけどね、STAP細胞だってなんでバレたかっていうと、追試して誰もできなかったからですよ。あれ、私も、昔、実は同じことやってましたけど、一切あんなこと起こらないんです。あれ、ES細胞の混入ですよね、常識に考えて。
 だから、その論文の信憑性については、先生がおっしゃることも一理あるんですけど、嘘の論文というのは、やっぱり、後で撤回したたり、あとコメントがいっぱい付いて追試できないというのが出て、世の中に明らかになるので、ちゃんと見れば、その論文が評価に足る論文か、あるいは、今、先生がおっしゃったように、高名なネイチャーやサイエンスやセルであっても、そこはわかりますので。そこはそういう評価で良いと思います。

【植地】
 それは十分に承知した上で、ただ、今の日本のメディアの現状を考えちゃうと、結局、そのネイチャーに発表されましたとか、論文で発表されましたというと、それだけでニュースになっちゃうわけですよ。
 だから、どこかのメーカーであれ、どこかの製薬会社であれ、どこかの研究者であれ、世界で初めてこんなことやりました、世界で初めての論文が出ました、と。それだけでもって、ニュースになってバーって出ちゃって、それが評価されちゃうんです。
 その後、先生がおっしゃったみたいに追試したら価値がありませんでした、というところは報道されないわけですよね。
 だから、例えばワクチンであれ、医薬品であれ、まあイベルメクチンとかそういうものも含めてですけども、絶対に効かないだろう、こんなもんって思うものでも、効きましたという論文が出たっていうと、それがニュースになってポンって出ちゃって、それをまた信じちゃう人が出てきちゃうわけです。
 実際には、それを何回も検証していって、効かないっていうデータは山のようにあるにもかかわらず、それは一切報道されませんから、
 そうすると、そういうところで、メディア・リテラシーのない方々っていうのは、一番最初のトリガーだけで引っ張られちゃう、ということが起きてるんですね。だから、論文が出ましたっていうニュースはほとんど信用しない方がいいです。よっぽど、気をつけないと。

【八木】
 それはコロナの時に、アビガンとかイベルメクチンですごくありましたね。

【川上】
 アビガンって論文になりましたっけ?
 論文全部ダメってことはなくて、機能性食品にくっついてくるような論文と、ネイチャー、サイエンス、セルに通る論文を一緒にしちゃいけないです。それは絶対にいけない。質が違う。質が違いすぎる。
 研究者が、それこそ数人がかりで10年くらいかかって作るような論文が、ネイチャーやサイエンスやセルに出るわけですから、機能性食品で何が何に効いたなんていう論文と一緒にされては.........そういう論文ははっきり言ってクズですよ。そのメカニズムも一緒にしてはいけない。
 ただ、それを見分けるのを一般の人に求めるのは、ちょっとハードルが高すぎるのは確かです。
 それで、メディアの扱い方も、いい論文と悪い論文をちゃんとメディアが評価しないで、一般の人に売っちゃうのも確かです。
 コロナの場合も、そういうふうな(怪しげな)機能性食品がいろんなの出てきて、今、まさにそういうことが問われているところだと思うんです。
 明治大学のこのフォーラムの趣旨にも合うと思うんですが、そこまでのリテラシーを.....要するに理系の大学院レベルのリテラシーを一般の人に求めることはできないんだけど、それが分からないと騙されるって世の中になっているのを、どうしたらいいかというふうに問題を一般化することができると思います。

【八木】
 そこはまさに、そういう医学系の記事を書いたりする人には、せめて大学院生レベルの知識が欲しいということではないですかね。

【川上】
 そうですね。
 必ずしも大学院を出ていなくてもいいけど、大学院を出たくらいの内容を読み取れる人じゃないと、あまり記事にしてほしくないです。

【植地】
 医者で専門家ですっていうふうに言っておきながら、もうデタラメを書きまくっている人はいっぱいいるので.....

【川上】
 医者だけじゃなくて、理学系でもコロナに関しては、とある名誉教授っていうのがずいぶん悪さしています。

【八木】
 あと、アメリカで研究者をやっているとかいう怪しい人もいましたよね。

【川上】
 博士号を持っていればいいってもんではないですね。
 だけど、そこも見抜くのはものすごいハードル高いですよね。

【八木】
 とりあえず、メディアで大々的に打ち出したから、ネイチャーに出ているからっていうことで、無条件に信じない方がいい、というのが植地先生のご意見で、それはそれで本当に貴重なご意見だと思います。
 ただ一方で、まさに川上先生がおっしゃるような、機能性表示食品などでいい加減な学術雑誌に出ている論文というのはそもそもそういうレベルですらないような、言ってみれば、個人のブログ記事と新聞記事の差ぐらいのもんだと、そういう理解でよろしいですかね。
 ただ、機能性表示食品は置いておきまして、補助金100億円が動いているアンジェスの例のワクチンに関しては、論文1本しか出ていなくて、それがまたMDPIという....川上先生、MDPIって何ですか?

【川上】
 今では結構使っている人もいるから、あまり言えないけども、評価分かれるというか、ハゲタカジャーナルってジャーナルがあるんですよね。要するにお金払ったら何でも論文載せるようなジャーナルね。........に、なるかどうかの際どい雑誌ですよね。
 でも、僕はMDPIには絶対出さないですね。

【八木】
 だから、まさに100億円も補助金を取っているようなコロナワクチンに関するデータというものが、1本しか論文として発表されていなくて、それが出ているのが、しかもハゲタカジャーナルまがいだというところ自体もね、本当に、こういうのって検証し得るものなんでしょうか。

【吉田】
 論文の世界も色々ありましてね。
 例えば私は、ジョンズ・ホプキンス大学にいて、ずっとそのままいようかなと思っていたんですけど、やっぱり有名な教授というのは自分のジャーナルを持っているんですよ。そこに自分のところが送れば絶対通るんです。これは一級誌でも結構そうなんです。
 だから植地先生がおっしゃることというのは、一定程度、本当にそうなんです。
 じゃあ何を目安にすればいいのかというと、科学は、論文と、そしてインパクトファクターだけじゃなくて、引用回数。どれだけ引用されて学者に信用されているか。
 こういうものを参考に、インパクトファクターやサイテーション・インデックス(Citation Index)ですね。他の学者が採用して、それを自分の論文やほかのところに引用する、そういったデータが、その論文の信頼性というものでは大事です。
 論文を完全に否定するというのは、科学を否定するようなものですからね。
 セルなんていう論文は、本当にレビュー並みの労力を使って我々は載せるんですよね。本当に10年とかの研究の結実ですよね。
 だから、本当に公平な意味で、論文を評価するのは難しいですよ。
 例えばもっと言えば、ジョンズ・ホプキンスで、私の隣でやっていた中国の方はですね。データをけっこう捏造しているのを、僕、横で見て知ってますからね。絶対にデータを自分で解析するんですよ。僕らは、必ず第三者で解析をして、絶対に何らかの変更がないようにするんですけど、その人は自分で取ったデータを自分で解析するんで、そんなことをしていたらやっぱり正しいデータは出ないですよ。それはもう学者の良心もあると思うんですけど、ただ何を参考にするかというと、やっぱり今は学術論文しかない面もあるわけですから。
 いい学術論文とは、やっぱりインパクトファクターや、サイテーション・インデックス、引用回数、どれだけ引用されているか、それが信頼性だと思うので、そういったことを参考に見ていくしかないんじゃないかと思います。

 はっきり申し上げると、機能性食品のあれはお手盛りの論文です。あれに価値はない。ただいっぱいありますよ。和文の論文では、出せば載る......いっぱいありますよね。そういう論文ね。特に医学系も多いですよ。そういう....あまり言わないですけど、これ以上言うと、あれですから。

【江下】
 そろそろ時間の方はですね。予定の時間も10分超過しておりますので、一応フロアの方から、ここでもし何か質問がございましたら。
じゃあ、そちらの方。

【山岡】
 どうも今日は貴重なお話をありがとうございます。
 ノンフィクション作家の山岡淳一郎と申します。
 一つ絞ってお伺いしたいんですけれども、新型コロナワクチン。これ総合的にはやはり非常に効果があって、随分抑えられたなと思っています。私自身も打ってますけれども。
ただ一方で、先ほどその「悪魔のくじ引き」というふうに植地さんがおっしゃったような副反応の問題が生じていると。
 まず一つ、植地先生にお聞きしたいのがアストラゼネカのワクチンに関して、2020年の後半から21年の初めぐらいにかけて、開発が進まれて、これから承認するかどうかのところで、ヨーロッパで、血栓症が出るんじゃないかということで、確かデンマークやオランダあたりで、使用禁止というようなことが出てきた。
 その後、日本がどういうふうにどこのワクチンを入れるかというところで、アストラゼネカさんは結構少なかったような気がするんですね。そこらへんの経緯ってのはまずちょっと教えていただけませんか。

【植地】
 当事者なんでいろいろと言っちゃいけないことがいっぱいあるのですが....まず血栓症の問題に関しては、あれは追試をいろいろとされています。ヨーロッパではかなりあれはないだろうと最終結論が出ていますので、一瞬だけ禁止になった国もあります。
 もちろん「悪魔のくじ引き」を予防しなきゃいけないので、リスクがあるものは、例えば、今使わないで、他のデータが出るまで待つというのは、それは規制当局として、レギュラートリー・サイエンスとして非常に正しい姿勢だと思います。
 実際、その後、追試が出てきて、例えばヨーロッパでは、アストラゼネカのワクチンはかなりいろいろ使われていますし、イギリスでもかなり使われていますが、そこのところは血栓症は増えていません。
 実は、当時、日本の政府は可能性のあるワクチンはみんな交渉してたんですよ。アストラゼネカだけじゃなくてファイザーもですし、ノババックスもですし、モデルナも。
要は、交渉して、日本の分を確保しないと分けてもらえないんですね。
 ですから、このぐらいの量は確保してほしい、開発に成功したら買うからという形で、厚労省は各メーカーと話をしているはずです。それで、その中でもちろんアストラゼネカも一定数......あの当時はたぶん1億2000が基本だったと思います.....全員に打てるように、という形で、それは全部のメーカーに同じように話をしていたんですね。
 その後、日本に関しては、実は、ほぼほぼ、ああいう報道があって、その後の後追い報道が何もなかったということもあって、アストラゼネカのワクチンは採用されなかったところもかなりあります。
 ファイザーのワクチンとモデルナのワクチンが使われて、最初から実は、僕はモデルナのワクチンに関しては、ドース(投与量)がオーバーしているから副反応が多いよって言ってたんですけど、なぜかそのままアメリカと同じドースを使っちゃったんで、かなり副反応が高く出て、3回目以降は僕が言った通りに半分の量にしてくれたんで、副反応がだいぶ減りましたけど。
 それからモデルナ・アームというのは打ち方の問題だけなので、あれが出るのは日本人の医者の先生の打ち方があまり良くなかったからなので、あれは出るべくして出たという話なんですけど、そういうのはちょっと置いておいたとしても、アストラゼネカのワクチンはあまり公的に使われなかった部分もあったんで、COVAXという輸出ですね、第三世界に対するワクチン共有プログラムの方に乗っかったことになってます。
 実際これはもう厚生労働省から公表されているんですけども、6000万ドースぐらいだったと思うんですけど、ちょっと細かい数字忘れちゃいましたけど、最終的には輸出して第三世界の方の、ワクチンの製造ができない、というか、ファイザーのワクチンめちゃめちゃ高いんで、そういうのが買えない国に輸出をされています。
 ちょっとさっき出さなかったグラフのところにあるんですけど、海外にワクチンを輸出した国というので、実は3位か4位が日本なんですよね。それで、その輸出したワクチンというのは、全部アストラゼネカのワクチンになっているはずです。

【山岡】
 ありがとうございます。
 すみません。吉田先生にちょっと一言伺いたいんですけれども、
 日本で今、副反応の報告制度というのがあります。副反応で亡くなったというについての報告制度ですね。
 現場のお医者さんや製薬メーカーから上がっているのはだいたい2000人以上超えていると思います。それと一方ですね。健康被害に関しての救済制度ということで、死亡一時金に4420万。とにかくこれは認めてあげましょう、というのが、100件ちょっとぐらいになったんでしょうか。
 そのぐらいは遺族に対しては救済せんといかん、ということになっているわけなんですけれども、まだやっぱり、ちょっと、この開きがあると思うんです。この救済に関してなんですが、確か、立憲民主党はこの閉会審査中に、健康被害救済特別措置法というのを確か挙げていると思うんですけれども、それがどういうふうになっているのか、あるいは、今後、この救済の問題に関して、御党ではどういうふうに考えておられるのか、そのへん最後にちょっと教えていただけますか。

【吉田】
 法案は提出しているんですけれども、そもそもワクチンに対する考え方にも関係するところだと思うんです。
 無過失保障制度ってお分かりになりますかね。その理解がないとちょっと説明しづらいんですけど、定期接種といわれるワクチンに関しては無過失保障なんですよね。
 3回量保障制度というのは似たようなシステムですけど、日本は無過失保障制度って非常に難しくて、イギリスだとですね、ちょっとこれ話すと一時間ぐらいかかっちゃうんですけど、訴訟権が奪われるんです。
 でも、日本は関係ないんですよ。それは、何人からも訴訟権を奪うことはできないと憲法で決まってるので。そういう中のルールにおいての無過失保障制度なんで、かなり限界があるわけですよね。だから、どこまでの救済が適切かと判断するのは個々人の問題になってしまうわけなんです。
 因果関係に関しても、これは難しい線引きがありますよね。私の地元の中日ドラゴンズの若い選手がワクチンを打って亡くなってしまって、これはおそらく因果関係ありだろうと。

【山岡】
 私もその方を取材しました。ご遺族を。

【吉田】
 そうですか。だから、とにかく救済を進めていくという法案にはなってますが、これは詳細に関して数字的なものが入っていたかどうかというと、ちょっと私は記憶がないんですね。
ちょっと調べてもう一回、資料をお送りしますけれども、いずれにせよ、救うべき方たち、とにかく副反応や健康被害に関しては、できる限り多くの方を救いましょうという趣旨で、それを促進していくという法律ですよね。たぶん、プログラム法じゃないですかね。ちょっと確認させてください。

【山岡】
ありがとうございます。

【江下】
もう1名、もしいらっしゃればお受けしますが、いかがでしょうか。じゃあ、そちら、どうぞ。

【質問者】
 今日はどうもありがとうございます。本当に目から鱗の話が多くて、びっくりしてお聞きしておりました。
 メディアの役割というのはちょっとお聞きしたいんですけれども、最初の川上先生のお話で、PCRの感度の話ですね。
 僕もそれを思い出して、7割方ぐらいしか精度がないという話がバーッと流れてですね、当時PCRのことで、いや、そんなことないんだとおっしゃってたのは、今、山岡さんが言われてましたけれども、デモクラシー・タイムズで、児玉先生がそんなことないよとおっしゃってたんですね。
 で、専門家と言われる方が、こんなに意見が分かれちゃったという現象を見て、あれ、おかしいなと思ったわけですね。
 今日のお話もお聞きしてPCRの問題というのは、海堂先生もおっしゃったように7割の精度しかないってことはありえないわけですけれども、当時メディアに出た方々はですね、皆さんこぞってそう言っておられましたね。それはどうしてそういうことになっちゃったのかな、という疑問があります。
 それを多分、川上先生なんかもどうしてだろうと思っておられるかもしれませんけれども、そのメディアの状況というのを、どういうふうにお考えになっていらっしゃるかということが一つと、それと吉田先生にもお聞きしたいんですけれども、アンジェスの問題を、ああやって追求されて、先ほど示されていましたけれども日刊ゲンダイさんが取り上げておられるぐらいで、私も関心がありましたので、吉田先生が質問されていらっしゃるというのは見ていたんですけれども、例えば、朝日新聞とか他の大手マスコミの方々が、吉田先生の質問に対してどんな反応されていらっしゃるのか、全く無反応なのか、それについてちょっと聞きたいなと思います。

【川上】
 PCRの精度7割というのは理由が分かっていて、コロナは結構診断が難しくて、タイミングがいい時にタイミングのいい場所から鼻腔とか唾液とかを取らないと診断できないんですよね。今でもそうだと思います。だから1回で診断できなかったらば、2回3回と診断しなければいけない。
 だから一番最初にコロナが出た頃に言われていたのは、時期を逸すると、要するに、肺の中に入って肺炎になっちゃうと、ウイルスがいなくなっていて診断が難しく、診断し損なうことがあることがある。そういう時の難しさとして、1回で、PCRでバシッと当てる頻度が7割ぐらい、という話ですね。
 だけど、PCRはそこにウイルスがいたら100%見つけるんですよ。
 PCRで7割の感度の時は、例えば抗原検査であったとしたら、その感度は3割ぐらいになる、半分以下の感度になるはずです。
 それが、PCRが7割というのだけが一人歩きした。多分、僕は意図的にさせたものだと思っています。尾見さんも言っていたので。だから、それを意図的に一人歩きさせて、PCR検査の抑制に使ったのだと思います。それを、メディアが何の検証もせずにそのまま垂れ流した、そういう構図です。

【吉田】
 ツッコミの反応はですね。よく雑誌からは問い合わせがありましてね。FlashとかFridayとか、文春とか新潮とかそういうところからは、色々とお話聞かせてくださいといわれて、お話するんですけど、新聞社は少ないですね。
 ただあれ、ちょっとどこの新聞社か忘れましたけど、2社ぐらい。1社はもうシリーズで何回かやりたいからということで、お話聞きに来られたりですね、また聞かせてくれというところがありますけど、ちょっと私も記憶ないので、またちょっと調べておきますけれども、かなり大きな問題で根が深い問題だとは思ってます。マスコミも見てますよね。
 ただ内容が非常に難しい部分もあるのと、やはりこれ、当然ですけど、政府が抑えにかかるタイプの話ですので、そのへんの影響もあるんじゃないかなと思いますけどね。

【江下】
 よろしいでしょうか。それではもう時間がかなりロスタイムを過ぎている状態なので、Zoomの方からも色々な質問が来ているんですけれども、一つだけお尋ねしたいと思います。
 この方はですね。「自衛のためにツイッターなどで川上先生など信用できる専門家の意見を参考にしているんだ」というようなことを述べていて、「いまだにノーマスクとかノーワクチンとかいう団体もあって、こういうのを何とか打ち破る方法はないのか、あるいは正しい情報を大勢の人に伝える方法はないのだろうか」という非常に素朴な疑問であり、我々の研究科でも当然色々考えなければいけない問題の質問があるんですけれども、専門家として、どのように情報を広げるかということに関して、これはやはり川上先生にお願いしたいと思います。

【川上】
 これはメディアの話だから江下さんが専門だと思うんですが、最大限の努力はしてますよね。
 私はツイッターで取材されたら答えますし、最終期の頃にテレビに出たこともありますけれども、あと直接、立憲の議員さんとも話をしたりしてますし。
 ただ、コロナが今、どういう状態かという情報自体を取らなくなってしまって、フラットな生のデータが出なくなっている。
 だから民間のデマはかわいらしいものですからどうでもよくて、政府側のデマを問題にしたのは、政府がそういうことを言うから、混乱して色々な説が出ちゃいますよね。そこからみんな何とか正しい情報を拾ってほしいんですが、それはどうしたらいいでしょうか。

【江下】
 予想外のところから話が来てしまいました。
 確かに我々の研究科では、メディアの研究、コミュニケーションの研究、災害情報の研究、色々な専門家の研究をやっていますが、確実に言えることは、まず「正解がある」ということは絶対ありえないわけです。
 正しい方法も、「これが正しい方法だ」と言ったら、その時点でデマであろう、というのがほぼ確実なところですね。
 従って原則的なことしか、当然、言えないことになるんですけれども、私なりの専門性から言えることからすると、私はメディア史が専門ですけれども、ひとつ、難しい問題を簡単にわかるというのは絶対ありえないことなので、わかりやすいというのが、一番実は罠である、というのを常に警告的に考えています。
 難しい問題を理解するためには、時間をかけないと当然理解できません。色々な情報を時間をかけて手に入れて、それで当然、専門の違うことは理解できませんから、信頼できる人を何とか見つけるとか、それはもう時間をかけて勉強するしかない、というのがまず一点ですね。
 性急にわかりやすいことを分かろうとすると、まずわかりやすいというのはほとんどの場合、過剰に単純化しているケースがほとんどですので、わかりやすいなと思った瞬間、これはかなりはしょっている話なんだなということを考えなければいけないし、そしていろいろな分野の専門家でコミュニケーションのプロではないので、わかりやすく伝えてくれるわけでは決してありません。
 性急に答えを求めると、もともと専門家は自分の仕事に忙しい方なので、コミュニケーションにわずわらわされると、多分発信をやめてしまう可能性が高いと思うんですね。
 となると、もう、我々はとにかく簡単には分かれないことに直面しているんだということと、早く結論を出そうとすると、必ず罠に引っかかってしまうんだ、ということは、常に念頭に置かなければいけないな、というところが、今、ギリギリ言えることだと私は思っています。ということになるんですが。

【川上】
 ウイルスがいて、自分がいて感染するかどうか、で、その後どうなるかということで、要するに、ウイルスの量とかCT値みたいな話も出てくるけれども、それで、他に感染している人との距離とか、どれくらい時間がいるとか、自分がワクチンを打っているか、打っていないかとか、自分の中の免疫の状態とか、健康の状態がどうかとか、かかってから、どういう基礎疾患があるかだとか、その時にマスクをするとかしないとか、ものすごくパラメーターが多いんですよね。
ものすごく多い。簡単な問題ではない。
 だから自分の中でも、いろんなもののパラメーターに、いろいろ重さをつけながら道を選択していくしかないのに、ワクチンを打った方がいいのか打たない方がいいのか、6回目打った方がいいのか、打たない方がいいのか、とか、ちょっと簡単に答えは出ない。
 その人がそれまでワクチンを打って、どれくらい反応があったかというのは分からないし、だからものすごくパラメーターが多い中で、自分の中で重みをつけて、自分はどこの知識が足りないんだということを自覚しながら、補強しながら、自分で判断するしかない世の中ですよね。そんなふうに思います。

【江下】
 最後、川上先生がきれいにまとめてくださったというところで、ほぼ30分経過してしまいましたので、そろそろこの研究科フォーラムはこれにて終了ということにさせていただきたいと思います。
 どうか、登壇者の方々に拍手をお願いいたします。
 どうも先生方、ありがとうございました。

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